ベトナム 〜村の祈り〜  

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NPO-ARBA 副代表 川崎陽子

ベトナム全土に地域の人々によって代々守られてきたDinh(集会所)、Chua(仏教寺院)が点在している。そこには観光として見せる顔はなく、日常の時間の流れの中で静かに訪れる人を待っている。
よそ者の訪問をベトナムの人々はいつも笑顔で迎えてくれる。迎え入れる側は暗い部分を隠し、訪問者は部分的な光の中を歩く。
あえて観光地とは程遠い、どこかに町や村の人々の日常の息遣いを感じ、人々の心の拠りどころとなり、暗さも明るさも心にたたんで祈るところ、DinhやChuaを歩いてみた。その中の一つを紹介する。

“鯨”の住む町
ベトナム南部のBinh Thuan省(ビントゥアン)のHam Tan(ハムタン)は漁業の町、ニュックマムの町、くぼんだ海岸線のおかげで台風の荒波から守られる町、そして鯨が人を助けてくれると語り継いでいる人が住む町である。
Ham Tanには100年前から鯨の骨が町の人々によって守りつがれ、崇められている。
昔漁民が小さい船にのってしけの海に漁にでて遭難した。好奇心旺盛な鯨は海に浮かぶ遭難者を岸まで運んだ。ある日海で鯨の死骸を見つけた漁民はその死骸をみんなのところに持ち帰り、肉親を思うように丁寧に葬った。鯨は神様となった。
今鯨の骨が安置されている場所は、宗教を越えたDinh(亭)ディンといわれる集会所に収められ、Ham Tanの人々の心の拠りどころとなっている。
このDinhの祭礼が執り行われる日は年二回。陰暦の6月15日と11月15日。式典のはじまりはまず船に乗って海にでる。海上で祈りを捧げた後、陸のDinhに戻り祭礼がはじまる。

Dinhに守られDinhを守る
Ham TanのDinhはBINH THUAN省 LAGI町、HAM TANの Ben Sung Dung 通りにある。 Dinhの正式名称は VAN PHUOC LOC 。
現在の建物は1956年、町の漁民、住民がお金を出し合い建設されたものである。
Dinhの中央の建物は地元の守り神、この地域の貢献者が祀られ、向かって右隣の建物には鯨の骨が祀られている。向かって左端の小さな建物は海で遭難した人が祀られている。
Dinhを訪れた際、3人の子どもを持ち、このDinhの近くに住むおじさんが迎えてくれた。地域住民から依頼を受けてDinhの守り役を任されている。守り続けて今年で19年。毎日果物や花を供え、掃除をしている。私たちが訪れた時もバナナ、パイナップル、グラジオラスの花を前に語ってくれた。
「この地域の漁民は貧しい。魚をどんどん取りすぎて少なくなってる」。
外から訪れる者にとっては関心のない、そこに住む現実の暗い部分をぽつんと語った。おじさんが祭壇に果物を供え、グラジオラスの花を飾る時の祈りは、よそ者が垣間見ることさえもできないHam Tanだけの祈りだ。

 

 

 

Dinh(亭)ディン
Dinhとは村や町にある集会所であり、祖先を祀る廟である。建物の中央はDinhの守り神、この土地の貢献者、開拓者、この地で生まれた救国の英雄、幸せを呼び込んだ人々が祀られている。人々は尊敬と感謝と町の繁栄を願い祈りを捧げる。鯨神信仰はベトナム中部や南部で多く見られ、ここHam TanのDinhは三つの建物が横に並んだ右端の建物に鯨の骨が祀られている。